吊り方と落下防止なぜ躯体から取るのか

照明工事でいちばん費用と手間がかかるのは、実は見た目に出ない部分——器具を何に、どう留めるかです。

店舗の天井。ダクト、点検口、既設の照明が入り組んでいる
天井は、内装の仕上げ材の裏に躯体・ダクト・配線が通っています。器具を留めるのは仕上げ材ではなく、その奥です。

1.重さの話から始める

ムービングライトは、いちばん軽い小型ムービングヘッド(150W級)で正味3.6kg、ビームムービングヘッド295で正味14kg、当社で扱うなかで最も重い大型ウォッシュ(40W×19灯)は正味15kgです。それが1台ではなく、10台、20台と天井にぶら下がります。

ここで問題になるのが、店舗の天井の多くが石膏ボードなどの仕上げ材であることです。仕上げ材は「天井の見た目を作るための板」であって、物をぶら下げるための構造ではありません。ボードアンカーでどれだけしっかり留めたように見えても、荷重を受け持っているのは板そのものです。

3.6kg
小型機でもこの重さ
小型ムービングヘッド(150W級)の正味質量。当社で最も重いのは大型ウォッシュの15kg
15cm
この距離落ちるだけで
落下防止ワイヤには器具質量の約10倍以上の衝撃がかかります(JATET安全手帳 p.12)
33
日常点検の項目数
清掃・増締め・交換・修理依頼に分かれます(同 p.10・p.12)

2.なぜ躯体から取るのか

当社が躯体(建物の構造体)から取るのを原則にしているのは、荷重を構造で受けるためです。天井の仕上げ材に負担させない、と言い換えてもいい。

建築基準法施行令39条3項には、特定天井——「脱落によつて重大な危害を生ずるおそれがあるものとして国土交通大臣が定める天井」——について、「その構造は、構造耐力上安全なものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものとしなければならない」と定められています。どの天井が特定天井に当たるかは国土交通大臣の告示で決まるため、個別の建物での判断は設計者・所管の行政の領分です。

当社の立場は単純です。照明の重さを天井材の側に足さない。そうしておけば、天井の扱いがどうであれ、照明が原因で条件を変えてしまうことがありません。見積りに「取付金物類(躯体面)」という項目があるのは、この工事の実費です。

3.落下防止ワイヤ——「一度でも落ちたら交換」の理由

ワイヤは「落ちないための部品」ではなく、落ちたときに一度だけ受け止める部品です。

公益社団法人 劇場演出空間技術協会(JATET)照明部会の安全手帳には、こう書かれています——落下距離15cmで、落下防止ワイヤは器具質量の約10倍以上の衝撃を受ける(p.12)。10kgの器具なら、瞬間的に100kg超の力がワイヤと留め具にかかる計算です。

だから同じ資料は、一度衝撃を受けたワイヤは必ず新品に交換するとしています(二度目で切れる、と書かれています)。見た目に異常がなくても、内部で伸びきっているためです。

そして手帳は、ハンガーで吊ったら必ず落下防止ワイヤを使用することを求めています(p.3)。理由も具体的で、フォーカス(光の向きを合わせる作業)のときにネジが緩んで落下することがあるから。取り付けの瞬間ではなく、その後の調整作業が危ないという指摘です。

出典=JATET照明部会『演出空間用照明器具を安全に使用するために』(全12ページ)。当社はこの手帳の内容に沿って施工しています。

4.熱と、可燃物との距離

落下と並んでもう一つ、同じ資料が繰り返し書いているのが熱です。

指摘実務でどう効くか
照明器具に幕などが触れて起こる火災が、舞台における火災の原因のひとつ(p.4)店舗ならカーテン・装飾布・造花。器具との距離を取る
器具の銘板に最小離隔距離・最高表面温度・本体質量・上下使用角度範囲が表示される(p.2)この数字が、置ける場所と向けられる角度を決めます
消灯後もしばらく高温。電源コードを器具本体に接触させない(p.4)配線の取り回しは見た目の問題ではありません
使用角度は水平から上下90度の範囲(p.4)「真下に向けたい」が通らない機種があります
ミニムービングヘッドの本体。取り付け用の金具が底面にある
小型機でも、留め具・ワイヤ・熱の考え方は同じです。「小さいから簡単」ではありません。

5.点検は、店のスタッフには任せられない

同じ手帳には、日常点検が33項目あること、点検には絶縁抵抗5MΩ以上の測定が含まれること(演出空間仮設電気設備指針 2.2.4項③)、そして部品の適正更新時期は年間使用日数によって変わることが書かれています(灯体・レンズ・リフレクタ・ソケット・内部配線・ケーブル・ワイヤ/基準=JATET-L-7190)。

ここが、夜の店にとって見落としやすいところです。劇場は公演のある日だけ、クラブは毎日営業します。同じ器具でも、消耗の速さが違う。「メーカーが言う交換時期」ではなく「うちの使い方での交換時期」で考える必要があります。

また、端子ネジの緩みは接触不良からケーブルの焼損につながると指摘されています(p.10・p.12)。増締めが点検項目に入っているのはこのためです。絶縁抵抗の測定は測定器と資格が要る作業で、店のスタッフができる範囲を越えます。

6.この規格が生まれた経緯

演出照明の分野で、こうした安全の決まりが整えられてきた背景には、過去に実際の事故があります。中でも知られているのが1988年の六本木の事故で、設計上は1日4〜5回の昇降を想定していた装置が、実際には15〜20回動かされていた——という使用頻度の想定と実際の乖離が原因の一つとされています。

この話を、当社は脅し文句として使いません。書いておきたいのは一点だけです。業界はここから規格と点検の考え方を作った。当社はその規格に沿って施工している。それだけのことです。

7.次に読むもの

数値の出典は、公益社団法人 劇場演出空間技術協会(JATET)照明部会『演出空間用照明器具を安全に使用するために』(全12ページ・該当ページを本文に記載)と、e-Gov 法令検索で公開されている建築基準法施行令第39条第3項の原文です。個別の建物で天井をどう扱うかは設計者と所管行政の判断になります。書いているのは、クラブ・ホストクラブ・ラウンジ・ライブハウスにステージ照明を実際に施工している電気工事会社(日本ネオン株式会社)です。

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