ムービングライトとは仕組み・できること・店に入れるときの考え方

ふつうの照明が「空間を明るくする道具」だとすれば、ムービングライトは「時間をつくる道具」です。同じ場所が、曲に合わせて何度も表情を変える。

オレンジのビームが交差するライブ会場。客席の上を何本もの光の筋が走っている
これがムービングライトの仕事です。光の向き・色・形・太さが、卓からの信号ひとつで同時に変わります。

光の筋が空中を走り回り、フロアに模様が落ちる——あれを出している器具です。1台で向き・色・形・太さの4つを変えられるため、台数が少なくても絵が何通りにも化けます。

1.仕組みは2種類ある

「動く照明」と一口に言っても、動かし方には大きく2つの流儀があります。ここを知っておくと、カタログの言葉が急に読めるようになります。

方式どう動くか性格
ヨーク型(ムービングヘッド)灯体そのものを、ロボットアームのような腕(ヨーク)が左右・上下に振るいま主流。光量が大きく、動きも大きい。水平540°・垂直270°まで回る機種が多い
ミラースキャン型灯体は固定したまま、前についた鏡だけを動かして光を飛ばす鏡だけを動かすので動きが速い。反面、振れる範囲は狭い

店舗に入れるものは、ほぼヨーク型です。以下、このページで「ムービングライト」と書いたらヨーク型を指します。カタログで「ムービングヘッド」と書かれていたら同じものだと思ってください。呼び名が2つあるだけです。

2.何ができるのか——4つの動き

ムービングライトが1台で担うのは、次の4つです。これが全部、卓(調光卓)からの信号ひとつで同時に変わります。

変えられるもの中身
向き(パン/チルト)左右がパン、上下がチルト。フロアを舐めるように動かしたり、天井に向けて振り上げたりする
色カラーホイールという色板の円盤を回して切り替える。RGBの混色で作る機種もある
形(ゴボ)模様を切り抜いた金属やガラスの板を光路に差し込み、床や壁に模様を落とす。星、水紋、ロゴなど
太さ(ズーム/プリズム)光の束を絞ったり広げたり。プリズムを噛ませると1本の光が何本にも分かれる
6色の光の柱が垂直に立ち、それぞれの足元に丸い模様が落ちている
色を変え、模様(ゴボ)を入れ、太さを絞る。1台の器具が、この6本ぶんの表情を持っています。
1.5°
最小ビーム角
当社のビームムービングヘッド 295。ほぼ棒のような光になります
26cm
10m先での太さ
1.5°で飛ばすと、10m離れた場所でこの直径(1.5°から計算=2×10m×tan0.75°)。細さが「光の柱」を作ります
540°
水平の可動域
一周半。垂直も270°回る機種があり、天井から床まで舐めるように動きます

3.なぜスモークが要るのか

光は、空気中に何も無ければ目に見えません。

私たちが普段「光が見える」と思っているのは、光が壁や床に当たって跳ね返ったものを見ているだけです。だから何も無い空間に細い光線を飛ばしても、着地点が光るだけで、途中の筋は見えません。

緑と紫のヘイズ(煙)の中に、光の筋がはっきりと浮かび上がっている
空気に細かい粒を混ぜると、粒の一つひとつが光を跳ね返して、空中を走る筋が初めて見えるようになります。

これがスモークマシンの役目です。煙を出したいのではなく、光を見せるために空気に粒を混ぜている。だから——ビーム系のムービングライトとスモークは、セットで初めて意味を持ちます。

「ムービングライトを入れたのに、思っていた画にならない」という相談は、ほとんどがここです。当社が12台の構成にスモークマシンを2台つけるのも、派手にしたいからではなく、買っていただいた光がちゃんと見えるようにするためです。

※ 後述するウォッシュ系は面を色で塗る使い方なので、スモークが無くても効果が出ます。何を入れるかで要否は変わります。

4.どうやって動かすのか——DMXという共通語

ムービングライトは、DMX512という信号でまとめて制御します。舞台照明の世界で長く使われている共通規格で、いまも世界中の舞台照明が同じ言葉を喋っています。メーカーが違っても、この線でつながります。

仕組みは単純です。1本のケーブルを器具から器具へ数珠つなぎにして、卓から「1番の器具のパンを何度、色を何番、明るさを何%」という指示を流す。器具ごとにチャンネルという持ち分があり、たとえば当社のビームムービングヘッド 295は34ch、小型ムービングヘッド(150W級)は12chを使います。動かせる要素が多い器具ほど、チャンネル数も増えます。

実際の店舗運用では、スタッフが毎晩ゼロから操作するわけではありません。あらかじめ何通りかの演出パターンを組んでおいて、その日の空気に合わせて呼び出す——という使い方がほとんどです。当社が納品時にやっているのも、この「型」を作って引き渡すところまでです。

5.店に入れるとき、最初に決まってしまうこと

機種選びの前に、建物の側で決まってしまう条件が3つあります。ここを飛ばすと、選んだ機種が入らなかったり、入れても効果が出なかったりします。

条件なぜ効くか
天井の高さ光の筋を見せるには、光が走る距離が要る。天井が低いと、大型機の力が出きらないうちに床に着いてしまう。天井2.4m程度の店では、無理に大きい機種を入れるより小型機を数で使うほうが効く
天井に吊れるかムービングライトは小型でも正味3.6kg、当社で最も重い大型ウォッシュは正味15kg。石膏ボードの天井材に直接ぶら下げることはできず、躯体(構造体)から取るのが原則。ここは工事の話になる
電源台数が増えると容量が要る。しかも電源を入れた瞬間だけ大きな電流が流れるため、定格を足し算しただけでは足りない。回路の分け方まで含めて設計する

この3つはいずれも、機材屋ではなく電気工事の領域です。当社が「機材だけをお貸しする」ことをしていないのは、ここを他人任せにすると成立しない商売だからです。

6.次に読むもの

ここまでが、ムービングライトという器具の全体像です。もう一段くわしく知りたい方は、次のページへ進んでください。

このページを書いているのは、クラブ・ホストクラブ・ラウンジ・ライブハウスにステージ照明を実際に施工している電気工事会社(日本ネオン株式会社)です。機材の販売店でも、翻訳された海外メーカーの資料でもありません。

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