ふつうの照明が「空間を明るくする道具」だとすれば、ムービングライトは「時間をつくる道具」です。同じ場所が、曲に合わせて何度も表情を変える。
光の筋が空中を走り回り、フロアに模様が落ちる——あれを出している器具です。1台で向き・色・形・太さの4つを変えられるため、台数が少なくても絵が何通りにも化けます。
「動く照明」と一口に言っても、動かし方には大きく2つの流儀があります。ここを知っておくと、カタログの言葉が急に読めるようになります。
| 方式 | どう動くか | 性格 |
|---|---|---|
| ヨーク型(ムービングヘッド) | 灯体そのものを、ロボットアームのような腕(ヨーク)が左右・上下に振る | いま主流。光量が大きく、動きも大きい。水平540°・垂直270°まで回る機種が多い |
| ミラースキャン型 | 灯体は固定したまま、前についた鏡だけを動かして光を飛ばす | 鏡だけを動かすので動きが速い。反面、振れる範囲は狭い |
店舗に入れるものは、ほぼヨーク型です。以下、このページで「ムービングライト」と書いたらヨーク型を指します。カタログで「ムービングヘッド」と書かれていたら同じものだと思ってください。呼び名が2つあるだけです。
ムービングライトが1台で担うのは、次の4つです。これが全部、卓(調光卓)からの信号ひとつで同時に変わります。
| 変えられるもの | 中身 |
|---|---|
| 向き(パン/チルト) | 左右がパン、上下がチルト。フロアを舐めるように動かしたり、天井に向けて振り上げたりする |
| 色 | カラーホイールという色板の円盤を回して切り替える。RGBの混色で作る機種もある |
| 形(ゴボ) | 模様を切り抜いた金属やガラスの板を光路に差し込み、床や壁に模様を落とす。星、水紋、ロゴなど |
| 太さ(ズーム/プリズム) | 光の束を絞ったり広げたり。プリズムを噛ませると1本の光が何本にも分かれる |
光は、空気中に何も無ければ目に見えません。
私たちが普段「光が見える」と思っているのは、光が壁や床に当たって跳ね返ったものを見ているだけです。だから何も無い空間に細い光線を飛ばしても、着地点が光るだけで、途中の筋は見えません。
これがスモークマシンの役目です。煙を出したいのではなく、光を見せるために空気に粒を混ぜている。だから——ビーム系のムービングライトとスモークは、セットで初めて意味を持ちます。
「ムービングライトを入れたのに、思っていた画にならない」という相談は、ほとんどがここです。当社が12台の構成にスモークマシンを2台つけるのも、派手にしたいからではなく、買っていただいた光がちゃんと見えるようにするためです。
※ 後述するウォッシュ系は面を色で塗る使い方なので、スモークが無くても効果が出ます。何を入れるかで要否は変わります。
ムービングライトは、DMX512という信号でまとめて制御します。舞台照明の世界で長く使われている共通規格で、いまも世界中の舞台照明が同じ言葉を喋っています。メーカーが違っても、この線でつながります。
仕組みは単純です。1本のケーブルを器具から器具へ数珠つなぎにして、卓から「1番の器具のパンを何度、色を何番、明るさを何%」という指示を流す。器具ごとにチャンネルという持ち分があり、たとえば当社のビームムービングヘッド 295は34ch、小型ムービングヘッド(150W級)は12chを使います。動かせる要素が多い器具ほど、チャンネル数も増えます。
実際の店舗運用では、スタッフが毎晩ゼロから操作するわけではありません。あらかじめ何通りかの演出パターンを組んでおいて、その日の空気に合わせて呼び出す——という使い方がほとんどです。当社が納品時にやっているのも、この「型」を作って引き渡すところまでです。
機種選びの前に、建物の側で決まってしまう条件が3つあります。ここを飛ばすと、選んだ機種が入らなかったり、入れても効果が出なかったりします。
| 条件 | なぜ効くか |
|---|---|
| 天井の高さ | 光の筋を見せるには、光が走る距離が要る。天井が低いと、大型機の力が出きらないうちに床に着いてしまう。天井2.4m程度の店では、無理に大きい機種を入れるより小型機を数で使うほうが効く |
| 天井に吊れるか | ムービングライトは小型でも正味3.6kg、当社で最も重い大型ウォッシュは正味15kg。石膏ボードの天井材に直接ぶら下げることはできず、躯体(構造体)から取るのが原則。ここは工事の話になる |
| 電源 | 台数が増えると容量が要る。しかも電源を入れた瞬間だけ大きな電流が流れるため、定格を足し算しただけでは足りない。回路の分け方まで含めて設計する |
この3つはいずれも、機材屋ではなく電気工事の領域です。当社が「機材だけをお貸しする」ことをしていないのは、ここを他人任せにすると成立しない商売だからです。
ここまでが、ムービングライトという器具の全体像です。もう一段くわしく知りたい方は、次のページへ進んでください。