「スモークを焚くのに、消防署への届出は要るのか」。検索ではそう打つ人が多いのですが、条文の言葉は届出ではなく「承認」です。出せば終わりの書類ではなく、消防署長が基準に合っていると認めて初めて許される仕組みになっています。
スモークマシンと消防の話は、実は二つの別々の条文にまたがっています。ひとつは煙感知器が鳴る問題(消防法施行規則23条)。もうひとつがこのページの話で、「その場所で裸火を使ってよいか・危険物品を持ち込んでよいか」という、火災予防条例23条の問題です。前者を片づけても後者は残ります。ここでは東京都の火災予防条例を例に、条例・施行規則・東京消防庁の告示の原文で整理します。
東京都火災予防条例の第23条は、次のように書いています。
「次に掲げる場所で、消防総監が指定するものにおいては、喫煙し、若しくは裸火を使用し、又は当該場所に火災予防上危険な物品を持ち込んではならない。ただし、消防署長が、消防総監が定める基準に適合していると認めたときは、この限りでない。」(条例23条1項)
「次に掲げる場所」の1号が劇場等の舞台又は客席、5号が「火災が発生した場合に人命に危険を生ずるおそれのある場所」です。この5号を受けて消防総監が指定した場所の中に、夜の店がそのまま入っています。東京消防庁の告示(平成16年告示第7号)の別表第2の表題は、原文のままこうです。
「キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホール、飲食店及びバー(バーについては、公衆の出入りする部分の部のみ該当)」
| 店の実態 | 告示の区分 | 告示で分けられている場所 |
|---|---|---|
| クラブ・ディスコ(DJがいて踊る箱) | ナイトクラブ/ダンスホール | 「舞台」と「公衆の出入りする部分」(別表第2) |
| ホストクラブ・キャバクラ・ラウンジ(接待のある店) | キャバレー/飲食店 | |
| バー | バー(公衆の出入りする部分のみ) | |
| ライブハウス・ショーパブ(舞台と客席がある) | 劇場等の舞台又は客席(条例23条1項1号) | 「舞台」「客席」「公衆の出入りする部分」(別表第1) |
つまりクラブもホストクラブもバーも、条例が最初から名指ししている場所です。「うちは劇場じゃないから関係ない」は、この表題を読むと成り立ちません。
※ どの区分に当たるかは、建物の用途(消防法施行令別表第一の項)と使い方で決まり、最終的には所轄の消防署の判断です。この表は当社が施工でよく出会う業態を、告示の言葉に置き直したものです。
条例23条が禁じる行為は、告示の第1の1(2)で「指定場所において喫煙し、若しくは裸火を使用し、又は当該場所に危険物品を持ち込む行為」と定義されています。スモークマシンに関わるのは後ろの二つです。
「危険物品」が何かは、火災予防条例施行規則の第8条が列挙しています。原文の区分のまま引くと——
| 規則8条の区分 | 身近な例 | スモークとの関係 |
|---|---|---|
| 危険物、可燃性固体類及び可燃性液体類 | 消防法別表第一の危険物(ガソリン・灯油・潤滑油など第4類の油類を含む) | 油性のスモーク液はここに当たり得る |
| 可燃性ガス(一般高圧ガス保安規則2条1項1号) | LPガス・都市ガスのボンベ | ガス式の火炎演出 |
| 火薬類(火薬類取締法2条)およびがん具煙火 | 発煙筒・銀テープ砲・舞台用の煙火 | 「発煙筒の煙」はこちら。スモークマシンとは別の区分 |
ここで一つ、言葉の整理が要ります。「スモーク」と一口に言っても、発煙筒や煙火の煙は火薬類、スモークマシンの煙は液を熱で霧にしたもので、条文上はまったく別の入口です。消防署に相談するときに「スモークを使います」だけでは、担当者もどちらの話か分かりません。
東京消防庁は「裸火」を熱源ごとに説明しています。電気を熱源とするものについては、原文でこうです。
該当するもの=「外部に露出した発熱部で、可燃物が触れた場合に瞬時に着火するおそれのあるもの(発熱部の表面温度がおおむね400℃以上のもの)」
該当しないもの=「発熱部が焼室、風道又は庫内に面しているもの(トースター、ヘアドライヤー、電気オーブン等)」
スモークマシンは、電熱のヒーターブロックで液を気化させる機械です。発熱部は本体の中にあり、吹き出し口から出るのは高温の霧です。定義の文言だけを読めば、「発熱部が露出しているか」が分かれ目になります。ただし当社は、ここで「だから裸火ではない」とは言いません。理由は二つあります。
だから当社の答えは一つです。機種の仕様(熱源・発熱部の構造・液の成分表)を持って、営業を始める前に所轄の消防署へ相談する。その材料を揃えるのが、当社の仕事のうちです。
スモーク液には、水にグリコール類を溶かした水性と、鉱物油をベースにした油性があります。油は消防法の第4類の危険物(引火点によって第三石油類・第四石油類などに分かれます)に当たることがあり、当たれば規則8条の「危険物」=持込みが禁止行為になります。
では、承認をもらえば何リットルまで持ち込めるのか。告示の別表第2は、場所ごとに指定数量に対する割合で線を引いています。
| 場所(別表第2) | 危険物の解除範囲(原文) | 第四石油類(指定数量6,000L)なら | 第三石油類・非水溶性(同2,000L)なら |
|---|---|---|---|
| 舞台 | 指定数量の「100分の1未満」 | 60L未満 | 20L未満 |
| 公衆の出入りする部分(フロア) | 指定数量の「20分の1未満」 | 300L未満 | 100L未満 |
指定数量は「危険物の規制に関する政令」別表第三の数字です。どの類に当たるかは液のSDS(安全データシート)の「消防法」欄に書いてあります。当社が扱うスモークマシン4機種のタンクは最大でも2.5Lなので、量の線を超えることは実際にはまずありません。問題は量ではなく、「危険物品を持ち込んでいる」という事実に承認が付いているかどうかです。
なお、告示はどちらの場所にも共通で「消火器具を設けること」「従業員等による監視体制が講じられていること」を求めています。承認は書類だけで成り立たず、店の側の体制まで含めた話です。
条文を読んで、当社がいちばん注意しているところです。
告示の別表第2(キャバレー・ナイトクラブ・ダンスホール・飲食店・バー)を見ると、「舞台」の欄には喫煙・裸火使用・危険物品持込みの3つに解除の基準が書かれています。ところが「公衆の出入りする部分」の欄にあるのは危険物品持込みだけです。
つまり、舞台のないクラブのフロアで裸火を使う場合、表に当てはめられる基準がありません。残る道は、告示第1の2(2)〜(4)の「同等以上の安全性」「実験等の結果」「自衛消防の体制」から消防総監が個別に認める道です。スモークマシンが裸火と判断されるかどうかで、話の難しさが変わるのはこのためです。
舞台の欄の裸火の基準は、原文でこう並んでいます——「演出のために必要なものに限ること」「周囲の可燃物の転倒、落下等のおそれがないこと」「使用者が裸火使用を容易に停止できる措置が講じられていること」「消火器具を設けること」「従業員等による監視、消火等の体制が講じられていること」、そして火気使用設備器具等を使うものは「電気を熱源とするもの及び気体燃料を熱源とするものに限ること」。スモークマシンは電気を熱源とするので、この最後の条件には収まります。
※ 告示は東京消防庁のものです。他の市町村にも同じ趣旨の条があります(例:札幌市火災予防条例27条)が、条番号と基準は消防本部ごとに違います。必ず所轄で確かめてください。
忘れられがちなのが取消しです。告示第1の5は、「解除の基準を遵守しない場合」「解除された行為を行っている場所から火災を発生させた場合」に消防署長が解除を取り消すと定めています。承認は一度取れば永久のものではなく、基準を守り続けている間だけ有効です。
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| 「届出を出せば使える」 | 届出ではなく承認。消防署長が基準に適合すると認めたときに限って許される(条例23条1項ただし書)。書類審査と現地調査がある |
| 「水性の液なら消防は関係ない」 | 液が危険物品に当たるかと、機械が裸火に当たるかは別の話。液が水性でも、機械の側の判断は残る |
| 「火災報知器が鳴らなければ大丈夫」 | それは感知器の種別(消防法施行規則23条)の話。裸火・危険物品は火災予防条例23条で、条文が違う |
| 「イベントの日だけ申請すればいい」 | 毎日焚く店は1年以上継続する行為=恒常的な解除承認(告示第1の4)の側。都度の申請とは扱いが違う |
| 「承認を取ったら何でも焚ける」 | 解除の基準は「演出のために必要なものに限ること」。基準を守らなければ取消し(告示第1の5) |
| 「うちはクラブで劇場じゃないから対象外」 | 告示別表第2の表題が「キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホール、飲食店及びバー」。最初から名指しされている |
申請するのは「行為を行おうとする者」=店です。当社が代わりに承認を取ることはできませんし、承認を保証することもできません。当社が用意するのは、消防署との協議に要る材料です。
| 用意するもの | 中身 |
|---|---|
| 機種の仕様 | 熱源が電気であること、発熱部の構造、消費電力、タンク容量(当社のスモークマシンは最大2.5L) |
| 液のSDS | 成分と、消防法上の分類(第4類に当たるか・当たらないか) |
| 配置図 | 吹き出しの位置と向き、周囲の可燃物(幕・ソファ・装飾)との距離、消火器の位置。現地調査のときに一緒に見ます |
| 止め方 | 「使用者が裸火使用を容易に停止できる措置」に当たるもの。当社のスモークマシンは無線リモコン付きで、卓からも止められます |
正直に書くと、結論が「承認は要らない」になる店も、「この機種ではフロアで焚けない」になる店もあります。それを決めるのは当社ではなく所轄の消防署です。当社にできるのは、その判断をオープンの10日前ではなく、機材を決める段階で受けられるように、材料を揃えて先に相談に行くことです。