スモーク液の水性と油性火災報知器は液の種類を見ていない。SDSと消防法の区分で読む

「水性の液なら報知器は鳴らない」「油性だから鳴った」——現場でよく聞く言い方ですが、感知器の規格にそういう区別はありません。感知器が見ているのは空気の中の煙の濃さで、液の中身はもっと別のところ(消防法の区分と、体への影響)で効いてきます。

緑と紫の煙の中に光の筋がはっきり浮かび、フロアの上を斜めに横切っている
光の筋が見えるのは、空気中の粒が光を散らしているから。感知器が測っているのも、この「粒がどれだけ光を遮るか」です。

この記事は、スモークマシンと火災報知器(感知器の種別と替えられない場所)と消防署への届出(承認の手続と数量の線)の続きです。あちらで扱わなかった液そのものの話——中身は何か、どこを見れば危険物かどうか分かるか、水性なら安心と言ってよいのか——を、メーカーのSDS(安全データシート)と条文の原文で整理します。

1.中身は何か——店の言葉をSDSの言葉に直す

「水性」「油性」は店や販売店の言い方で、SDSにはその言葉は出てきません。SDSの3項(組成)と9項(物理的及び化学的性質)を見ると、実際にはこう書いてあります。

店の言葉SDSの言葉(3項・9項)確認した文書
水性の液(ウォーターベース)成分はプロピレングリコール 30%、残部はその他(水など)。物理状態は「透明粘稠液体」。引火点の欄は「引火しない」ダイニチ工業 ポータースモーク専用液 SDS(2025年3月26日版)
水性の液(別メーカー)「プロピレングリコール(食品添加用グレード)、トリプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール(化粧品グレード)、精製水、ごく微量の香料」ダーリング スモーク液 製品ページの成分表示
油性の液(オイルベース)主成分は流動パラフィン(鉱物油)。引火点 124℃超ニッチク薬品工業 流動パラフィン SDS
「原液」「業務用の濃いやつ」プロピレングリコール 100%。引火点 99℃、沸点188℃、自然発火点371℃、爆発範囲 2.6〜12.6vol%三協化学 プロピレングリコール SDS(2026年3月2日版)

ここで一つ、後の話に効く事実があります。水性の液の主成分そのもの(プロピレングリコールの原液)は引火点99℃の「引火する液体」で、水で薄めた製品になると「引火しない」に変わる——同じ名前の物質でも、SDSの欄が製品ごとに違うということです。

2.感知器は液の種類を見ていない——規格が決めているのは「濃さ」

火災報知設備の感知器は、「火災報知設備の感知器及び発信機に係る技術上の規格を定める省令」で作りが決まっています。まず定義(2条)から。感知器とは「火災により生ずる熱、火災により生ずる燃焼生成物(以下「煙」という。)又は火災により生ずる炎を利用して自動的に火災の発生を感知し」信号を出すものです。ここでいう「煙」は燃焼生成物のことで、スモークマシンの粒はそもそも想定の外。感知器の側に、粒が水性か油性かを見分ける機能はありません。

では何を見ているのか。店に多い光電式スポット型の定義は「一局所の煙による光電素子の受光量の変化により作動するもの」(2条9号)。光を当てて、粒に遮られた分を測っています。イオン化式スポット型は「一局所の煙によるイオン電流の変化」(2条8号)。どちらも粒がどれだけあるかで決まり、粒が何でできているかは関係ありません。

5
%/m|光電式 1種
規格省令17条2項の表。公称作動濃度Kを「減光率」で示す。1mの空気で光が5%減る濃さが目安
10
%/m|光電式 2種
同じ表の2種。店舗で見かける感知器の多くはこの2種か3種
15
%/m|光電式 3種
同じ表の3種。作動試験は1.5Kの煙で、不作動試験は0.5Kの煙で行う

減光率は「光源を色温度二千八百度の白熱電球とし、受光部を視感度に近いものとして測定する」(17条2項の注)——つまり人の目で見て白く霞むかどうかに近い測り方です。ビームの筋がきれいに見えるほど焚いた空気は、感知器にとっても「濃い」空気です。水性の細かい粒でも、光を遮れば同じように数えられます。

もう一つ、鳴るまでの「間」の話。蓄積型の感知器には蓄積時間があり、「五秒を超え六十秒以内」、公称蓄積時間は「十秒以上六十秒以内で十秒刻み」と決まっています(16条1項。光電式は17条1項で準用)。一瞬の吹き出しで鳴らなかったのに、焚き続けたら鳴った——という経験は、液の違いではなくこの蓄積時間の内側にいたか外に出たかの違いです。

なお、熱で動く感知器(差動式・定温式)は煙を見ていません。定温式の公称作動温度は「六十度以上百五十度以下」(14条1項)で、スモークの粒がどれだけ漂っても温度は上がらないので、液の種類はここでも無関係です。感知器の種別ごとの整理と、替えられない場所の条文は前の記事に書きました。

3.では水性と油性で何が違うのか——粒の「残り方」

黒い箱型のヘイズマシン。前面に吹き出し口、上面に操作パネルがある
同じ機械でも、入れる液で粒の消え方が変わります。感知器への影響は「どれだけ濃く、どれだけ長く」で決まります。

違いが出るのは、粒が空気中でどう消えるかと落ちた後どうなるかです。SDSの言葉に戻すと、プロピレングリコールは消防法上「水溶性液体」、流動パラフィンは「非水溶性液体」(それぞれのSDSの15項)。水に溶けるものは空気中の水分に混ざって薄まり、床や機材に落ちても水拭きで取れます。溶けないものは油膜として残り、ムービングライトのレンズやミラーに付くと拭き取りに手がかかります。

ここから先は当社の現場の経験で、規格や条文の数字ではありません。長く漂う細かい粒(ヘイズ)は油性で作りやすく、光の筋を長時間見せるには向いています。裏返すと、感知器のそばに同じ濃さの空気が長く居座ることになり、蓄積時間の内側で済んでいたものが外に出ます。水性は比較的早く薄まりますが、薄まるまでの濃さが同じなら鳴ります。「水性は鳴らない」ではなく「水性は濃い時間が短いことが多い」——正確に言うとここまでです。

同じ名前の物質でも、SDSの「消防法」欄は製品ごとに違う

「水性は非危険物」「油性は危険物」と一括りにすると外します。

プロピレングリコールの原液のSDSは「消防法 危険物 第四類 第三石油類 水溶性液体 危険等級Ⅲ」(三協化学)。同じプロピレングリコールを30%含むスモーク液の製品のSDSは「本品は引火性がなく、消防法の危険物適用外(非危険物)」(ダイニチ工業)。水で薄めた時点で引火しなくなり、区分が変わっています。

油性も同じです。流動パラフィンは製品によって引火点が違い、SDSで124℃超(第三石油類)のものもあれば、販売店がメーカーSDSからまとめた一覧では176℃や220℃以上(第四石油類)、254℃(250℃以上は危険物ではなく指定可燃物の可燃性液体類)のものまであります(山桂産業の引火点一覧・各製品のSDSより)。

つまり、「水性か油性か」では決まらず、その液のSDSの15項(適用法令)に何と書いてあるかで決まります。消防署に出す書類に付けるのはこの欄です。

※ SDSの記載はメーカーが版ごとに改訂します。ここに挙げた数字は、それぞれ本文中に記した版の記載です。使う液は必ずその製品の最新のSDSで確認してください。

4.消防法の区分——引火点で品名が決まり、品名で数量の線が決まる

消防法の別表第一は、第四類の危険物を引火点で品名に分けています。まず引火性液体の定義。「引火性液体とは、液体(第三石油類、第四石油類及び動植物油類にあつては、一気圧において、温度二〇度で液状であるものに限る。)であつて、引火の危険性を判断するための政令で定める試験において引火性を示すものであることをいう。」(別表第一 備考十)。引火性を示さない液は、そもそもこの表に入りません。ダイニチのSDSが「引火しない」から「非危険物」と続くのは、この定義のとおりです。

品名(別表第一 備考)引火点(一気圧)指定数量(危険物政令 別表第三)スモーク液で当たり得るもの
第一石油類21℃未満非水溶性 200L/水溶性 400L—(ガソリン・アセトンの類)
第二石油類21℃以上 70℃未満非水溶性 1,000L/水溶性 2,000L—(灯油・軽油の類)
第三石油類70℃以上 200℃未満非水溶性 2,000L/水溶性 4,000Lプロピレングリコール原液(99℃・水溶性)/流動パラフィンの一部(124℃超・非水溶性)
第四石油類200℃以上 250℃未満6,000L引火点の高い流動パラフィン(220℃以上のもの)
動植物油類250℃未満10,000L—

品名が決まると、消防署の承認で使う「指定数量の100分の1未満(舞台)/20分の1未満(公衆の出入りする部分)」の線が、この指定数量から計算できます。当社のスモークマシンのタンクは最大2.5Lなので数量の線を超えることはまずありませんが、「危険物品の持込み」に当たるかどうかの入口はこの品名です。非危険物の液なら、その入口をそもそも通りません。

5.「非危険物」と「体に無害」は別の話——SDSの11項と換気

紫のビームが煙の中を走り、床に映り込んでいる暗いフロア
煙は客もスタッフも吸います。消防法の区分が「非危険物」でも、SDSの有害性の欄は別に読みます。

水性の液を「安全な液」と呼ぶ人がいますが、SDSの11項(有害性情報)は消防法とは別の物差しです。上に挙げたダイニチ工業のSDSでは、GHS分類として特定標的臓器毒性(単回ばく露)区分1(中枢神経系、血液系)・区分3(麻酔作用)、(反復ばく露)区分1(中枢神経系、呼吸器)が付いています。注意書きも「ミスト、蒸気を吸入しないこと」「屋外又は換気の良い場所でだけ使用すること」。消防法では非危険物でも、吸い込む量と時間には上限がある、と読むのが正しい読み方です。

主成分のプロピレングリコールは、労働安全衛生法の表示対象物質(57条)・通知対象物質(57条の2)にも入っています(同SDSの15項)。スタッフが毎晩そばで働く店では、消防署の話とは別に換気の設計が要ります。空調の吸い込み口の位置は、煙を感知器から遠ざける話とも、店の空気を入れ替える話とも両方に効くので、現地調査では最初に見ます。油性の液についても、同じ11項を読んでください。「油だから体に悪い」「水だから安心」のどちらも、SDSを読まずに言える話ではありません。

6.よくある誤解

誤解実際
「水性の液に替えれば報知器は鳴らなくなる」感知器は減光率(濃さ)で動く(規格省令17条2項)。液の種類を判別する機能はない。濃さと時間が同じなら鳴る
「油性は全部、消防法の危険物」引火点で決まる。流動パラフィンでも250℃以上のものは危険物ではない(別表第一 備考の第四石油類は250℃未満まで)。判断はその製品のSDSの15項
「水性は非危険物だから何も気にしなくていい」消防法の区分と有害性は別。ダイニチのSDSは非危険物としつつ「換気の良い場所でだけ使用」と書いている
「原液を水で薄めて使えば安い」原液のSDSは第三石油類(引火点99℃)。薄める前の保管・持込みはその区分で見られる。薄めた後の性状はメーカーが保証していない
「一瞬しか焚いていないのに鳴った/長く焚いたのに鳴らない」蓄積時間は5秒超60秒以内(16条1項)。感知器から見た濃さが、その時間の内側か外側かの違い

7.当社がやっていること

液の話は、機材を決めた後ではなく機材を決める段階で片づけます。やっていることは3つです。

正直に書くと、液を替えるだけで鳴らなくなる店はほとんどありません。鳴る店で効くのは、感知器の種別(前の記事)と、煙の置き場所と量です。液の選び方は、その次に消防署への書類と、スタッフの体のために決めるものだと考えています。

8.次に読むもの

条文は e-Gov 法令検索で公開されている消防法(別表第一および備考)、危険物の規制に関する政令(別表第三)、火災報知設備の感知器及び発信機に係る技術上の規格を定める省令(第2条・第14条・第16条・第17条)の原文を確認して書いています。SDSは、ダイニチ工業「ポータースモーク専用液」(2025年3月26日版)、三協化学「プロピレングリコール」(2026年3月2日版)、ニッチク薬品工業「流動パラフィン」の各社公開文書、ダーリングの製品ページの成分表示、山桂産業の引火点一覧(各製品のSDSより)を参照しました。SDSは版ごとに改訂されるので、実際に使う液は最新版で確認してください。感知器の扱いと危険物の判断は所轄の消防署と消防設備士の領分で、このページは照明の側からの一般的な説明です。書いているのは、クラブ・ホストクラブ・ラウンジ・ライブハウスにステージ照明を実際に施工している電気工事会社(日本ネオン株式会社)です。

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